2022年6月、難治性、広範囲の円形脱毛症に対し、経口JAK阻害薬のオルミエント®(バリシチニブ)が適応追加となりました。頭部全体の50%以上に脱毛斑があり、且つ過去6か月間毛髪に自然再生が認められない、15歳以上の方が適応となります。オルミエントは、これまでにも関節リウマチや新型コロナウィルス感染症による肺炎の治療に使用されていた飲み薬であり、皮膚科領域では2020年12月に難治性のアトピー性皮膚炎に対し適応追加されております。
このオルミエント(JAK阻害薬)ですが、円形脱毛症の発症に関与するサイトカインの働きを抑制し、免疫細胞による毛根の攻撃を抑える、という作用です。従って免疫を抑制する治療で、且つ非常に高額な薬剤(高額療養費制度が利用できますが)でもあることから、導入や維持治療には慎重な管理が必要な薬剤です。この薬剤を使用するにはアトピー性皮膚炎の時と同様、日本皮膚科学会に届出をする必要があり、当医院は既に届出が受理されている施設です。
オルミエントはアトピー性皮膚炎に対しては投与後比較的速やかに効果を示す場合がありますが、円形脱毛症に対しては効果が出るのはゆっくりであり、最低9カ月間は服用が必要です。そして飲み始める前の脱毛面積が50~94%だった患者さんがオルミエント4㎎/日を9カ月間飲み続け、脱毛面積が20%以下まで改善したのが全体の35%の患者さん、というデータがあります。
肝心な料金についてですが、投与初期は保険が3割負担の患者さんで、1ヶ月に44,000円程度自己負担がかかります。高額療養費制度が適応となると年収にもよりますが、自己負担額は減ってきます。
オルミエントは国際的な臨床治験で治療効果が証明された円形脱毛症に対する初めての内服治療薬です。難治性で広い範囲の円形脱毛症でお悩みの患者さんは、ぜひご相談下さい。
なお、経口JAK阻害薬を難治性円形脱毛症に使用するため皮膚科学会に届出を行っているクリニックは県内で当院のみのようです(2023年11月現在)。常勤医のいる総合病院皮膚科ではオルミエントは投与可能ですが、総合病院の受診日・時間は基本平日午前中のみですので、病院を受診するのに仕事の休みを取ったり学校を遅刻する必要が出て来ます。当院であれば平日夕方や土曜日も受診可能ですので、仕事や学業に穴を開けるのは最小限に済みます。仕事をしている方、学生さんにも積極的に難治性円形脱毛症の治療を行って欲しい。当院ではそう願っております。
2023年9月、上記に記載のオルミエントに続き、難治性、広範囲の円形脱毛症に対し、経口JAK阻害薬(JAK3/TECファミリーキナーゼ阻害薬)のリットフーロ®(リトレシチニブ)が発売されました。リットフーロの適応はオルミエントと同様、頭部全体の50%以上に脱毛斑がある、かつ過去6か月間毛髪に自然再生が認められない方となります。
オルミエントと同じく経口JAK阻害薬の範疇に入る薬剤ですが、オルミエントとは作用機序が若干異なるため、オルミエントで効果不十分だった患者さんに対しリットフーロへ切り替えて治療を継続することも出来るかと考えております。何より難治性の円形脱毛症治療薬に新たな選択肢が出来たことは喜ばしいことです。
そしてオルミエントとリットフーロの最も大きな違いは12歳から使用可能という点です。これまで治療の選択肢が無かった誕生日を迎えた小学6年生~中学生(12歳~14歳)に対し投与できる薬剤です。
またオルミエント同様、非常に高額な薬剤(高額療養費制度が利用できますが)で、やはり日本皮膚科学会に届出をする必要があり、当医院は既に届出が受理されております。
難治性で広い範囲の円形脱毛症でお悩みの、特に12歳~14歳の患者さんは、ぜひご相談下さい。なるべく早目に積極的な治療をしていきましょう!