アトピー性皮膚炎の治療薬として初めての生物学的製剤(抗体製剤)の注射薬です。「IL-4」と「IL-13」という物質(サイトカイン)の働きを直接抑えることで、皮膚の炎症反応を抑制する新しい薬剤です。アトピー性皮膚炎の皮膚の内部に起きている炎症反応を抑えることによって、かゆみなどの症状や、皮疹などの皮膚症状を改善します。皮下注射製剤であり、基本は自宅でご自身で注射をしてもらいます(自己注射)。下記に記載した通り高額な薬剤ではありますが、皮疹・かゆみに対する効果は非常に高く、且つシクロスポリンと比べ定期的な採血が必ずしも必要ではないこと、血圧上昇、腎臓の機能低下などの副作用がほとんど無いこと、他の免疫抑制剤を飲んでいる方、糖尿病のコントロールが悪い方も投与が可能です。
また、2023年9月から生後6ヵ月から全年齢のアトピー性皮膚炎に適応が拡大となりました。すなわち、中等症・重症のアトピー性皮膚炎の小児にも投与が可能となったのです。
※本剤投与中、上記の塗り薬は継続してもらいます。
初回のみ600mg(300㎎ペン製剤を2本)、2回目以降は300mg(300㎎ペン製剤1本)を2週に1回皮下注射を行います。
※デュピクセント®の自己注射について
最大6本(3ヶ月分)まで処方が可能となります。
但し自己注射を行う為には、院内で初回(デュピクセント(ペン製剤)のデモ機を使用)・2回目(デュピクセント(ペン製剤)の薬剤を2本、実際に投与)の最低2回は看護師より投与方法に関する指導を受けて頂きます。
小児へのデュピクセント投与が成人と大きく違うのは、投与量と投与間隔です。体重別に設定されております。下記の表をご参照下さい。
ここは15歳以上の方と同様です。すなわち、保湿剤やステロイド外用剤などの塗り薬、抗ヒスタミン薬(痒み止め)の飲み薬などでコントロールできている軽症の患者さんには投与できません。
住んでいる地域で定められている小児医療の補助が受けられる方は、小児医療の適応となります。
基本、自己注射を行う薬剤ですので、注射方法の指導については成人の場合と同様です。院内で初回(デュピクセントのデモ機を使用)・2回目(デュピクセントの薬液を実際に投与)の最低2回はスタッフより自己注射指導を受けて頂きます。それ以降は自宅で保護者(可能なら子供自身も可)が患児に注射をすることになります。
特に体重が5~15㎏、30~60㎏の小児には新たに発売された200㎎シリンジを使用します。シリンジ製剤(注射筒に針が付いているタイプ)は当然ペン製剤よりも使い方は難しく、さすがに保護者が患児に注射をするケースがほとんどです。
小児の場合、自己注射ができるかが最大のネックですが、自己注射が出来ると1回の受診で最大3か月分の薬剤が処方可能となり、患者さん側にとっても通院頻度を減らせますし、遠方からの方でも治療継続できる点が大きなメリットです。
小児への痛み対策として、ご希望の方にはレーザー治療と同様に自費診療とはなりますが、麻酔のクリーム(エムラ®クリーム 5g1本;2200円(税込))をご用意しております。注射を行う1~2時間ほど前に、注射部位とその周辺にクリームを適量塗布し、ラップを貼って下さい。注射直前にラップを取りクリームをティッシュで拭き取った後、クリニックからお渡しした消毒綿で消毒後、デュピクセント注射をして下さい。
※別途、初診・再診料や処方箋料などがかかります。
※2024年11月より、それまでの薬剤費より300mgペン製剤が13%ほど、200mgシリンジ製剤も9%ほどお安くなりました。
デュピクセント®投与に当たる治療費は高額になります。患者さんの経済的な負担を軽減するために、高額療養費制度を始め、様々な医療費助成制度があります。
医療費助成制度について、詳しくは下記サイトをご参照ください。
デュピクセント®の薬剤費と医療費助成制度について|デュピクセント®を使用される患者さんへ|サノフィ株式会社
アトピー性皮膚炎の飲み薬としては12年ぶりに新たに適応となった経口JAK阻害薬です(2020年12月から適応)。『JAK/STATシグナル伝達経路』を阻害することで、かゆみを抑え湿疹の原因となる炎症、皮膚バリアの低下を抑えてくれる働きがあります。薬剤の試験では、一般的な外用治療で効果不十分であった症例においても優位にかゆみ・皮疹を抑えられたとの結果が出ております。また睡眠障害の改善や全体的な生活の質の向上にもつながったことも分かっています。
難治性、重症のアトピー性皮膚炎に保険適応があります。一定期間外用薬などを用いた治療を行っても症状が良くならない、日常生活に支障をきたす場合にそれまでの治療に追加する形で処方されます。注射が苦手な方にも使用できますね。費用はデュピクセントと同様に高額です。この薬剤も高額療養費制度を使用できます。投与前に感染症(主に結核、B型・C型肝炎)がないかどうかチェックする必要があり、服用開始後も新たな感染症がないかどうか等を定期的に採血で確認する必要がある薬剤です。またこの薬剤を投与する皮膚科の医院・クリニックは、いくつかの条件をクリアした上で日本皮膚科学会へ届出書を提出する必要がありますが、当医院は既に届出が受理されている施設です。
また、2024年3月からオルミエントの適応年齢が「2歳以上のアトピー性皮膚炎」に拡大されました。
①体重30kg以上の小児:成人と同様に4mgの錠剤を1日1回内服し、患者の状態に応じて2mgへ減量する。
②体重30kg未満の小児:2mgの錠剤を1日1回内服し、患者の状態に応じて1mgへ減量する。
以上が小児への用法・用量となります。
ただ、このオルミエント、錠剤しかなく、小児用のシロップや細粒などはありません。よって錠剤が内服できるようになるまで投与は困難です。また投与前検査(採血、胸部レントゲン検査)や投与中の検査(採血)も成人と同様に必要です。ですので、現実的には錠剤が内服できて、当院看護師が採血できる7歳~9歳以降の投与になると思います。
2021年8月に適応取得となった経口JAK阻害薬で、オルミエントと同じく『JAK/STATシグナル伝達経路』を阻害することで、湿疹やかゆみを抑える飲み薬です。オルミエントが主にJAK1.2を阻害するのに対し、リンヴォックはJAK1選択性が高く、それによる高い効果と安全性が期待できます。
難治性、重症のアトピー性皮膚炎に保険適応があります。ただし費用はデュピクセント、オルミエントと同様に高額で、高額療養費制度を使用できます。投与前に感染症(主に結核、B型・C型肝炎)がないかどうかチェックする必要があり、服用開始後も新たな感染症がないかどうか等を定期的に採血で確認する必要があります。またオルミエントと同様にこの薬剤を投与する皮膚科の医院・クリニックは皮膚科学会へ届出書を提出する必要があり、当医院は既に届出を受理されております。
なお他の薬剤と大きく違う点は12歳以上から使用可能なことです。よって誕生日を迎えた小学6年生のお子さんから内服が可能な薬剤です。やや特殊で高額な薬剤であることから、この薬を投与する場合大きな病院の皮膚科への紹介を勧められる場合もあるかとは思いますが、大きな病院を受診する場合、学校を平日午前中休む必要が出てきます。12歳以上で標準的なアトピー性皮膚炎の治療を行っても改善に乏しく、且つ極力学校を休ませたくない場合には御相談下さい。当院でも治療は可能です。
シクロスポリンは自己免疫抑制剤に分類される薬剤(飲み薬)です。2008年より難治なアトピー性皮膚炎に対し、保険診療で用いられるようになりました。もともとは臓器移植などの際に用いられる免疫抑制剤ですが、アトピー性皮膚炎の治療に用いるときにはその3~5分の1の量で十分に効果を発揮します。皮膚科領域ではアトピー性皮膚炎の他、尋常性乾癬・関節症性乾癬、自己免疫性水疱症などにもよく使われる、皮膚科医にとっては馴染みのある薬剤です。
通常の治療(保湿剤、ステロイドの塗り薬、かゆみ止めの飲み薬など)と比べ費用が高額であることからも(それでも後述するデュピクセントやオルミエントよりは安いですが)、アトピー性皮膚炎では通常のステロイドなどの外用治療では効果が十分でない場合に使用されます。
薬を飲むにあたって注意点もあります。
▼服用中は定期的な採血が必要となります。時に薬剤が血液中にどのくらいの濃度で存在しているか調べる採血(血中濃度測定)も行います。
▼12週続けて服用した場合は2週間はお休み期間が必要となります。
▼血圧の上昇、腎臓の機能の一時的な低下などの副作用に注意が必要です。自宅、職場などでも極力血圧を測ってもらいます。
前述したデュピクセントやオルミエントよりも内服中の検査や管理がやや面倒な薬剤ではありますが、最大の利点はこれら薬剤と比べると、検査の費用を入れても比較的安価であることです。ただ、他の免疫抑制剤を飲んでいる方、抗がん剤治療中の方、糖尿病のコントロールが悪い方などは飲むことが難しい薬剤ですので、気になる点がある場合には医師、看護師へお問い合わせ下さい。